「グレシャムの法則」をご存知ですか?
これは16世紀のイギリスの商人、トーマス・グレシャムの名に由来する法則です。
グレシャムの法則とは、「悪貨は良貨を駆逐する」という説です。
ちょっとわかりにくいですよね・・
同じ額面の貨幣でも本質的な価値(例えば、金属の純度)が異なる場合、人々は価値の高い貨幣(良貨)を貯め込み、価値の低い貨幣(悪貨)ばかりが流通するようになります。
中世ヨーロッパでは、財政難から銀貨の純度が下げられ、純度の高い銀貨と低い銀貨が同じ額面で使われました。
その結果、人々は純度の高い「良貨」を蓄え、純度の低い「悪貨」を日常の支払いに使うようになったのです。
グレシャムの法則では、純度50%の銀貨(悪貨)が使われ、純度100%の銀貨(良貨)は貯蔵されます。
私がグレシャムの法則を初めて知ったのは、当時勤めていた会社の上司から教わった時でした。
「なるほど」と感心した記憶があります。
グレシャムの法則は金貨や銀貨が使われていた物品貨幣の頃の話であり、 不換紙幣となった現代ではあまり関係のない話でした。
しかし、ビットコインの登場により、この法則が現代の貨幣にも当てはまるのではないかと考えました。
円とグレシャムの法則
2つの貨幣「円」と「ビットコイン」
ビットコインは、支払い機能を前提に設計された「貨幣」です。
そして、私たちが日常的に使う日本円も同じく「貨幣」です。
この2つの貨幣には日々変動する交換レートがあります。
たとえば、1BTCのレートが1,500万円のとき、「1,500万円の価値がある日本円」と「1,500万円の価値があるビットコイン」は、同じ価値を持つ異なる貨幣 といえます。
中世ヨーロッパでは、「同じ額面なのに銀の濃度が異なる」という価値の差が問題になりましたが、ビットコインと円の場合はそうではありません。
この2つの貨幣は 将来の価値 が明確に異なります。
将来の価値とは、どういうことでしょうか・・?
まず事実として、円の価値は確実に下がります。
円に限った話ではなく、現代の先進国通貨の多くが同じ運命を辿っています。
なぜなら、現在の通貨制度は、かつてのヨーロッパ王政が行った「銀貨の純度を下げて通貨量を増やす」手法と本質的に変わらないからです。
たとえば、同じ 5g の銀貨でも、銀の純度を 50%に下げれば、同じ量の銀から倍の枚数を鋳造できます。これにより、王政は税金で集めた銀貨を改鋳し、銀の純度を下げて増発することで、財政負担を軽くしようとしたのです。
現代では紙幣の「増刷」という形で、ヨーロッパ時代の銀貨と同様に、通貨の価値は少しずつ下がり続ける仕組みになっているのです。
この貨幣の増刷による物価上昇をインフレといいます。
一方、ビットコインの総発行枚数は2,100万枚と決まっており、それ以上増やすことはできません。ビットコインには中央集権的な管理者が存在しないため、大統領や権力者が命令して発行枚数を増やす、といったことも不可能です。
本質的に言えば、ビットコインは市場の期待感によっても価格が上下しますが、 一方で比較対象となる日本円は紙幣増発によって価値が下がり、その結果 ビットコインの価格上昇圧力になるという前提があります。
これは現代貨幣学における曲げようのない事実です。
将来の価値が違う「円」と「ビットコイン」
円とビットコインは、同じ交換レートを持つ場合でも、その性質は全く異なります。
前章で述べたように、円は増刷によって価値が希釈される運命にありますが、ビットコインは総発行枚数が固定されているため、直接的に価値が希釈されることはありません。
つまり、「1,500万円」と「1ビットコイン」は同じ額面の価値を持つように見えますが、その本質的価値は異なるのです。
この違いが、現代版の「グレシャムの法則」を引き起こしているとも言えるでしょう。
ただし、中世ヨーロッパの銀貨が当時すでに価値に差が生じていたのに対し、円とビットコインの場合は、現在ではなく未来の価値に差が生じるという点が特徴的です。
この「今の価値」と「未来の価値」か、大きな違いがあります。
時代 | 貨幣 | 価値の差 |
中世ヨーロッパ | 純度の異なる銀貨 | 当時すでに価値に差が生じていた |
現代 | 円とビットコイン | 未来の価値に差が生じる |
グレシャムの法則が起こるとどうなる?
では、実際にグレシャムの法則が現代で起こった場合を考えてみましょう。
「悪貨は良貨を駆逐する」という現象が起きるのですが、悪貨とは 長期的に価値が希釈する日本円のような通貨を指し、良貨は、価値が固定されていて希釈される心配がないビットコインを指します。
良貨 | ビットコイン | 価値は一定 |
悪貨 | 日本円 | 価値は希釈されて低下する |
「駆逐する」という表現から、ビットコイン(良貨)がなくなるようなイメージを抱くかもしれませんが、実際にはその逆です。
ここでいう「駆逐」とは、良貨を人々が溜め込むようになり、市場に流通しないことを意味します。
具体的には、良貨であるビットコインを人々が将来の価値保存手段として貯蓄し、日常の支払いには悪貨である円を使うようになるということです。この結果、ビットコインは流通量が減り、日本円ばかりが市場で目につくようになります。
理論的に考えれば、価値が減り続ける悪貨を貯め込む人はいません。
人々が良貨と悪貨の性質に気づいた時、 市場の原理により必然的に価値の高い貨幣が貯蔵されます。
市場では悪貨が溢れる一方で、需給により必要とされない悪貨の価値は急速に下落していきます。
まとめ
ビットコインは現在でも多くの人々にとって投資対象や、株式のようなギャンブル的な存在として見られています。
しかし、これはビットコインに対する一面的な見方にすぎません。今回ご紹介したグレシャムの法則を通じて考えれば、ビットコインは単なる投資対象ではなく、「円と同じ貨幣」として捉えることができます。
この視点では、ビットコインの持つ全く異なる側面が見えてきませんか?
ビットコインは奥が深くて非常に面白いテーマですよね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!また次回の記事でお会いしましょう。
余談ですが、グレシャムの法則に正確に従うなら、記事タイトルは「ビットコインは駆逐されるのか」となるべきかもしれません。しかし、記事のテーマをよりわかりやすく伝えるために、あえて「円は駆逐されるのか」と表記しています。